映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』の話をします。
前作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の続編であり、完結編です。
前作は、百合が戦時中にタイムスリップして、特攻隊員の彰と出会う話でした。
今回は、そのあとの話になります。
で、わたしが書きたいのは百合のことではありません。
宮原涼という人のことです。
この人の立場が、とにかくしんどい。
あくまで音羽の勝手な読み方です。正解を書くつもりはありません。
※内容に触れます。これから観る方はご注意ください。
いちおう、作品の枠だけ。
原作は汐見夏衛さんの小説です。
映画は2026年8月7日公開、監督は新城毅彦さん、配給は松竹。
百合を福原遥さん、涼を細田佳央太さん、千代を出口夏希さん、石丸を伊藤健太郎さんが演じています。
前作は若い世代に強く支持された作品でした。
その完結編ということで、期待も大きい一本です。
前作を観ていない方のために、もう少しだけ。
百合は、生きることに前向きになれない高校生でした。
そこから1945年に飛ばされて、彰と出会う。
明日死ぬかもしれない人たちの中で、生きることを教わる話です。
だから前作は、恋愛ものであると同時に、生き方の話でもありました。
どういう話か
彰と別れてから七年が経っています。
百合は、彰の夢だった高校教師になりました。
忙しく働いている。
でも、心はまだ1945年に置いたままです。
そこに、涼という青年が現れます。
臨時の教員として、百合のクラスの副担任になる。
そして涼は、彰の面影を持っていました。
この設定が、もう残酷です。
百合からすれば、死んだはずの人に似た顔が、毎日目の前にいる。
しかも職場で、隣の席に。
忘れようとしていた人が、生きた姿で現れてしまう。
揺れないほうが無理です。
そして、揺れること自体は悪いことじゃないと思います。
問題は、揺れているあいだ誰かが待たされることです。
この物語の痛いところは、そこに集約されています。
▼ 涼の想いを歌にしたオリジナル曲「僕として、君に会いたい」
いちばんつらい役
考えてみてください。
好きになった人が、自分を見ていない。
いや、見てはいるんです。
ただ、自分の向こう側にいる誰かを見ている。
しかも、その誰かは死んでいる。
勝てません。
死んだ人には、絶対に勝てない。
思い出は、更新されないので。
生きている人は、失敗もするし、機嫌が悪い日もあります。
でも、死んだ人はもう何もしません。
相手の中で、いちばんいい形のまま止まっている。
比べられたら、生身のほうが必ず負けます。
この不公平さが、この物語の土台です。
しかも彰は、百合のために命を使った人です。
その記憶を、どう扱えというのか。
忘れるのは裏切りのような気がするし、抱えたままだと前に進めない。
百合が七年かかったのも、無理はありません。
面影を持って生まれること
涼のほうには、何の責任もありません。
似た顔に生まれただけです。
選んだわけじゃない。
それなのに、会う人みんなが自分越しに誰かを見る。
最初は、得だと思うかもしれません。
好意的に扱ってもらえるので。
でも、そのうち気づきます。
好かれているのは、自分じゃない。
やさしくされればされるほど、確認させられる。
あなたはあの人に似ている、と。
褒め言葉のつもりで言われるぶん、たちが悪いです。
言い返せないので。
似ていると言われるたびに、自分の輪郭が少し薄くなる。
本人はそこにいるのに、見られているのは別の人です。

それでも、近づいてしまう
普通なら、離れます。
代わりに見られるなんて、耐えられないので。
でも涼は、まっすぐ百合に向かっていきます。
そこが、この人のいいところであり、痛いところです。
好きになってしまったら、条件は選べません。
不利だとわかっていても、近づく。
あの若さって、そういうものだと思います。
損得で動かない、というか、動けない。
計算できるなら、そもそも近づいていません。
わたしは、そこに好感を持ちました。
うまく立ち回れる人より、こういう人のほうが記憶に残ります。
百合の側も、責められない
ここは公平に書いておきたいです。
百合は、涼を利用しているわけではありません。
揺れているだけです。
七年経っても消えない気持ちと、目の前にいる人。
この二つのあいだで、どうしていいかわからない。
都合よく扱っているつもりはない。
でも、結果として涼は待たされる。
誰も悪くないのに、誰かが痛い。
この形が、いちばんやりきれないです。
しかも百合には、彰の夢を継いだという事情もあります。
教師になったのは、彰がなりたかったからです。
仕事そのものが、あの人とつながっている。
毎日、思い出す仕組みの中で生きているわけです。
忘れられるはずがない。
前に進むために選んだことが、前に進ませなくしている。
こういうねじれ、現実にもあると思います。
亡くなった人の趣味を引き継いだり、店を継いだり。
供養のつもりが、鎖になることもある。
これはけっこう苦しい構図だと思います。
▼ 『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』の世界を描いたオリジナル曲
千代という人
もうひとり、大事な人が出てきます。
ホスピスで最期の時間を過ごしている、年老いた千代です。
この人が、七十五年前とつながっている。
百合が置いてきた時間を、実際に生きてきた人がいる、ということです。
これはかなり効きます。
百合にとって1945年は、一瞬の記憶です。
でも千代にとっては、そこから七十五年ぶんの人生があった。
同じ出来事なのに、背負ってきた重さが違う。
千代の存在は、百合にとって証人でもあります。
あれは夢じゃなかった、と言ってくれる人。
誰にも信じてもらえない記憶を持っている人にとって、これは大きいです。
でも同時に、区切りをつけにくくもなる。
本当にあったことだと確認できてしまうので。
千代と話す場面は、この映画の静かな山場になるはずです。
時間の重みが、そこで一気に出るので。

過去を持つ人と、いまを生きる人
この物語には、二種類の人がいます。
過去に立っている人と、いまに立っている人。
百合と千代は、前者です。
涼は、後者です。
そして、後者はいつも分が悪い。
過去は美しくなっていくばかりで、いまは生々しいので。
それでも涼が投げ出さないのは、たぶん本気だからです。
好きな人が別のことを見ているとき、できることは多くありません。
待つか、離れるか。
涼は、待つほうを選びました。
待つのは受け身のようでいて、けっこう能動的な行為だと思います。
その場に居続ける、というのは体力がいるので。
しかも、待っていることを相手に押しつけない。
そこが涼の誠実なところだと思います。
「僕として、君に会いたい」
この物語をもとに作った曲の題です。
涼の気持ちを、一行にするとこうなると思いました。
似ている誰かとしてではなく、自分として会いたい。
たったそれだけの願いです。
でも、いちばん叶えにくい願いでもあります。
相手の心の中までは、こちらから動かせないので。
好きになってもらうことはできても、誰と比べられないようにはできない。
比較は、相手の頭の中で勝手に起きるものなので。
この無力さが、涼という人の立っている場所です。
丘の上での選択
終盤、星の降る丘で選択の場面が来ます。
詳しくは書きません。
ただ、あそこで大事なのは、誰を選んだかではない気がしています。
自分で決めた、ということのほうです。
過去に決められるのではなく、自分で。
そこに至るまでが長かったぶん、あの場面は効きます。
タイトルに「また出会いたい」とあります。
誰が、誰に、なのか。
前作の題は「また出会えたら」でした。
願望から、意志に変わっている。
その一語の違いに、この続編の答えが入っている気がします。
戦争の話でもある
この作品は恋愛ものとして語られがちです。
でも、土台には戦争があります。
彰は特攻隊員でした。
生きて帰ってこないことが決まっている人と、恋をした話です。
前作を観たとき、そこがいちばん苦しかった。
自分で選べない死に方をする人たちが、たくさんいたということです。
千代のような人が、そのあと七十五年を生きてきた。
つまりこの物語は、戦後を生きた人の話でもあります。
若い世代がこの入口から昭和の話に触れるのは、いいことだと思っています。

曲に込めたこと
曲は、涼の視点で書きました。
恨み言にはしていません。
あの人は、百合を責めていないので。
書いたのは、比べられていることに気づいてしまう瞬間です。
相手はそんなつもりがない。
でも、わかってしまう。
その静かなところを、歌にしました。
メロディも、あまり動かしていません。
叫ばない人なので。
サビだけ、一度だけ強く出るようにしました。
言えなかったことを、一回だけ言う感じです。
おわりに
誰かの代わりにされるのは、つらいことです。
でも、たぶん多くの人が経験しています。
前の恋人と比べられたり、兄や姉と比べられたり。
比べているほうには、悪気がありません。
だから言いにくい。
この映画は、そこをちゃんと見ている気がします。
そして、比べられた側がどうするか。
怒るのか、諦めるのか、それでもそばにいるのか。
涼の選び方が、いちばんの見どころだと思います。
前作を観ていなくても話は追えますが、観ておいたほうが確実に刺さります。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
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あらすじをなぞるのではなく、その人が何を感じていたかを想像しながら、歌と文章で書いています。
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