『青い鳥』遠回りしないと気づけないこと——音羽が全部読んで驚いた話

物語の考察

メーテルリンクの『青い鳥』の話をします。

あらすじだけは、みんな知っている作品だと思います。

幸せの青い鳥を探しに行ったら、実は家にいた。

ひとことで言えば、それだけ。

でも、ちゃんと読むとぜんぜん違う話でした。

わたしも、大人になってから初めて全部読んで、けっこう驚きました。

以下は音羽の勝手な読み方です。正解を書くつもりはありません。

いちおう、作品の枠だけ。

『青い鳥』は1908年に発表されたモーリス・メーテルリンクの戯曲です。ベルギーの作家で、この作品などでノーベル文学賞を受けています。

もともとは舞台で上演するために書かれたもの。

だから読むと、けっこう場面転換が多くて、演出のことが書いてあったりします。

絵本版で知っている人が多いと思いますが、原作はかなり長いです。

※結末に触れています。

思っていたより、暗い話

主人公は、チルチルとミチルという兄妹です。

貧しい木こりの家の子ども。

クリスマスイブの夜、魔法使いのおばあさんが来て、青い鳥を探してきてくれと頼まれます。

で、二人は旅に出る。

ここまではメルヘンです。

でも行き先が、なかなかです。

思い出の国。夜の御殿。未来の国。

思い出の国では、死んだおじいさんとおばあさんに会います。

童話の枠を、けっこう超えてきます。

登場するのも、人間だけじゃありません。

犬や猫が人の姿になって、しゃべってついてきます。

犬は忠実で、猫は裏でこそこそ動く。

パンの精や、水の精や、光の精も出てきます。

舞台で観たら、さぞ華やかだろうなと思います。

ただ、内容はけっこう哲学的です。

猫が二人の旅を邪魔しようとするのも、意味があります。

人間が幸せの秘密を知ってしまうと、動物や物の立場が変わる。

だから邪魔をする。

子ども向けの顔をして、けっこう複雑なことをやっています。

死んだ人に会う場面

ここがいちばん印象に残っています。

おじいさんたちは、こう言うんです。

こっちの人間が思い出してくれるとき、自分たちは目を覚ます、と。

忘れられているあいだは、眠っている。

これ、けっこうすごい考え方だと思いませんか。

死んだ人は、こちらが覚えているかぎり存在している。

お墓参りとか、仏壇とか、日本にもある感覚です。

百年以上前のベルギーの戯曲に、それが書いてある。

この場面を読んでから、お墓参りの意味が少し変わりました。

あれは、故人のためというより、思い出すための場所なんだなと。

忘れないでいることが、いちばんの供養になる。

そういうことなんだと思います。

毎年、命日にだけ思い出す人がいます。

その日だけ目を覚ましてもらっている、と考えると、少し申し訳ない気もします。

もっと普段から思い出せばいいのに、と。


▼ 青い鳥の視点で書いたオリジナル曲はこちら


捕まえると、色が変わる

旅の途中、青い鳥は何度か見つかります。

でも、捕まえると死んでしまったり、色が変わってしまったり。

連れて帰れないんです。

あれが、この話の肝だと思います。

幸せは、つかまえた瞬間に幸せじゃなくなる。

ほしいと思っているうちが、いちばん輝いて見える。

手に入れると、当たり前になってしまう。

身に覚えがありすぎて、ちょっとつらいです。

ほしかったものを手に入れて、一週間くらいで慣れてしまう。

あれ、なんなんでしょうね。

人間の仕組みとして、そうなっているとしか思えません。

メーテルリンクは、それを鳥の色が変わる、という形で書きました。

うまい見せ方だと思います。

しかも、色が変わるのは鳥のせいじゃありません。

見る側の目が変わっただけです。

同じものを見ているのに、価値が下がって見える。

恋愛でも、仕事でも、あると思います。

あこがれていた仕事に就いたら、思っていたのと違った、とか。

あれも、たぶん同じことです。

仕事が変わったんじゃなくて、こちらの位置が変わった。

だとすると、幸せを増やすには、位置を変えないようにするしかないのかもしれません。

難しいですが。

家に帰ってきたら

結局、二人は青い鳥を見つけられずに帰ります。

そして、家のかごにいた鳥が青いことに気づく。

ずっとそこにいたのに、気づかなかった。

よく「幸せは身近にある」という教訓として紹介される場面です。

たしかにそうなんですが、それだけだとちょっと物足りない。

というのも、二人は旅をしたから気づけたわけです。

旅に出なければ、あの鳥はただの鳥のままだった。

近くにあるものって、背景になってしまうんですよね。

毎日見ていると、見えなくなる。

壁紙みたいなものです。

チルチルたちは、一度その家から出た。

だから、帰ってきたときに家が見えた。

引っ越しのときに、部屋がやけに広く見えるのと似ています。

物がなくなって初めて、その部屋の形が見える。

Little girl with praying. Peace, hope, dreams concept.

遠回りは、無駄じゃない

この話がいいのは、そこだと思います。

身近にあるものは、身近にあるうちは見えません。

いろんなものを見て、比べて、失って、それでやっと気づく。

だから、あの旅は無駄じゃなかった。

最初から家にいたら、たぶん一生わからないままです。

遠回りしないと、たどり着けない場所ってあるんだと思います。

これ、若い人に言っても伝わらない気がします。

わたしも、言われたら「じゃあ最初から言ってよ」と思っていたはずなので。

でも、最初から言われても意味がない。

自分で歩かないと、身に入らないタイプの話なんだと思います。

教訓って、たいていそうです。

言葉としては小学生でも知っている。

でも、意味がわかるのは何十年も後だったりする。

そして、また逃げる

しかも最後、その青い鳥は逃げてしまいます。

チルチルは、見つけた人がいたら返してください、とお客さんに呼びかける。

あそこ、はっきり言ってハッピーエンドじゃありません。

手元に幸せが来たと思ったら、また飛んでいってしまった。

でも、その終わり方のほうが正直だと思います。

幸せって、握りしめておけるものじゃないので。

また探すことになる。それでいいんだ、という終わり方に見えます。

この最後のセリフは、客席に向かって言われます。

舞台だからできる終わり方です。

観ている人まで、探す側に引き込まれる。

うまいなあ、と思います。

本で読むと、いきなり読者に話しかけられる形になるので、けっこうびっくりします。

あの呼びかけは、たぶん本気の質問です。

あなたのところに来ていませんか、と。

青い鳥の側から見ると

ちょっと視点を変えてみます。

鳥のほうは、ずっとあの家にいました。

見つけてもらえるのを待っていた。

でも、誰も気づいてくれない。

探しに行かれてしまう。

そばにいるものほど見てもらえない、というのは、人間関係でもある話です。

毎日いる人の大事さは、いなくなってから気づく。

そう考えると、この童話はけっこう身につまされます。

家族とか、長い友達とか。

いつでも会えると思っていると、優先順位が下がっていきます。

遠くの新しいものばかり見てしまう。

鳥の側から見たら、それはたぶん寂しい。

でも鳥は、文句も言わずにそこにいた。

未来の国の子どもたち

もうひとつ、忘れられない場面があります。

未来の国に、これから生まれてくる子どもたちがいるんです。

順番を待っていて、生まれるときに何かひとつ持っていく。

発明とか、病気とか、才能とか。

中には、生まれてすぐに死ぬことが決まっている子もいる。

童話でそこまで書きます。

そして、生まれる前の子どもたちは、地上に行きたがっている。

あそこを読むと、生きていること自体がずいぶん贅沢に思えてきます。

この場面があるから、最後の「幸せは家にあった」が効いてくるんだと思います。

曲に込めたこと

この物語をもとに作った曲は、青い鳥の視点で書きました。

探される側の歌です。

ずっとここにいるのに、遠くばかり見ている人を見ている。

責める感じにはしませんでした。

それが人間だと、鳥のほうはわかっている気がしたので。

恨み言の歌にすると、聴いていてしんどいので。

少し離れたところから見ている感じにしました。

メロディも、あまり主張しないようにしています。

鳥の声って、風景の一部みたいなものなので。

もしよかったら、物語を思い出しながら聴いてみてください。

おわりに

『青い鳥』は、幸せは身近にある、というきれいな話として片づけられがちです。

でも実際に読むと、死んだ人に会いに行くし、最後は鳥が逃げるし、そんなに丸くない。

教訓を一行にまとめると、たいてい大事なところが落ちます。

この作品は、まさにそれをやられてきた気がします。

もし機会があれば、ぜひ全部読んでみてください。

思っていたのと違う、というのが最初の感想になると思います。

あと、この作品は舞台で観るのがいちばんいいはずです。

もともとそのために書かれているので。

日本でもときどき上演されているようです。

いつか観てみたいと思っています。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

音羽(Otowa)について

音羽は、小説や映画、童話を題材に、登場人物の心情を歌にしているチャンネルです。

あらすじをなぞるのではなく、その人が何を感じていたかを想像しながら、歌と文章で書いています。


▼ 『青い鳥』の世界を描いたオリジナル曲


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